東京地方裁判所 平成11年(ワ)17570号・平10年(ワ)9085号・平11年(ワ)28050号 判決
平成一〇年(ワ)第九〇八五号相続財産の範囲確認請求事件(甲事件)
平成一一年(ワ)第一七五七〇号建物共有持分権確認請求事件(乙事件)
平成一一年(ワ)第二八〇五〇号不当利得返還請求事件(丙事件)
甲・乙・丙各事件原告 小島秀太
甲・乙・丙各事件原告 小島博
甲・乙・丙各事件原告 小野寺ふみ子
右三名訴訟代理人弁護士 守川幸男
甲・丙各事件被告 小島きよ
甲事件被告 小島崇弘
乙事件被告 株式会社上州屋
右代表者代表取締役 小島きよ
右三名訴訟代理人弁護士 大政徹太郎
同 石川幸佑
甲・乙各事件被告ら訴訟代理人弁護士 遠藤曜子
主文
一 甲、乙、丙各事件について、原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は、甲、乙、丙事件を通じて原告らの負担とする。
事実
第一請求
一 甲事件について
甲事件原告らと、甲事件被告らとの間で、別紙物件目録一記載の建物から同目録二ないし四記載の区分所有建物を除いた部分が、被相続人小島喜一の相続財産に属することを確認する。
二 乙事件について
乙事件原告らと、乙事件被告との間で、乙事件原告らが、別紙物件目録一記載の建物から同目録二ないし四記載の区分所有建物を除いた部分につき、それぞれ八分の一の共有持分権を有することを確認する。
三 丙事件について
丙事件被告は、丙事件原告らに対し、それぞれ金二一三五万一四四一円及びこれに対する平成一二年二月一日から支払済みまで、それぞれ年五分の割合による金員を支払え。
第二当事者の主張
(甲・乙事件について)
一 請求原因
1 訴外亡小島喜一(以下「亡喜一」という)は、昭和六一年八月二六日死亡した。
2 甲・丙各事件被告小島きよ(以下「被告きよ」という)は亡喜一の妻であり、甲・乙・丙各事件原告小野寺ふみ子(以下「原告小野寺」という)、同小島秀太(以下「原告秀太」という)、同小島博(以下「原告博」という)、甲事件被告小島崇弘(以下「被告崇弘」という)は、それぞれ亡喜一の子である。したがって、原告らの相続分はそれぞれ八分の一である。
3 亡喜一は、昭和二七年四月二日、乙事件被告株式会社上州屋(以下「被告会社」という)を設立し、存命中はその代表取締役の地位にあり、亡喜一死亡後は被告きよが被告会社の代表取締役の地位にあり、また、現在では被告崇弘も同社の代表取締役に就任している。
4 別紙物件目録一記載の建物(以下「第一小島ビル」という)のうち、同目録二ないし四記載の区分所有建物は原告小野寺の所有であるが、これを除いた部分(以下「本件建物部分」という)は、未登記のままである。
5 亡喜一と原告小野寺は、昭和三九年八月ころ、第一小島ビルを建築し、本件建物部分の所有権は、亡喜一が取得した。
6 ところで、被告きよ、同崇弘、被告会社は、本件建物部分は、被告会社の所有であるとして、その帰属を争っている。
7 よって、原告らは、被告きよ、同崇弘に対し、本件建物部分が亡喜一の相続財産に属すること、被告会社に対し、原告らが本件建物部分についてそれぞれ八分の一の共有持分を有することの確認を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1、2、4、6は認め、同3は争わない。
2 同5は否認する。第一小島ビルを建築したのは、亡喜一ではなく、被告会社である。
三 抗弁
1 被告会社は、昭和三九年七月ころの時点で、本件建物部分を占有していた。
2 被告会社は、昭和五九年七月ころの時点で、本件建物部分を占有していた。
3 被告会社は、平成一一年一二月二四日の第一〇回口頭弁論期日で、原告らに対し、本件建物部分を時効により取得したとの意思表示をした。
四 抗弁に対する認否
抗弁1、2は否認する。本件建物部分を占有していたのは、被告会社ではなく、亡喜一個人である。
五 再抗弁
被告会社は、本件建物部分を占有するに当たり、所有の意思がなかった。すなわち、本件建物部分の管理、使用、収益をしていたのは亡喜一個人であって、被告会社には占有に当たり、所有の意思がなかった(他主占有)。
六 再抗弁に対する認否
否認する。被告会社は、本件建物部分の固定資産税を納付してきていること、本件建物部分を株式会社松坂屋(以下「松坂屋」という)に賃貸し、賃貸収入を得てきたこと、決算報告書に本件建物部分を被告会社所有とし、その賃料収入を計上してきたことなどから、被告会社が本件建物部分を所有の意思をもって占有してきたことは明らかである。
(丙事件について)
一 請求原因
1 甲・乙事件請求原因1、2、5項と同じであるので、当該部分を引用する。
2 前記1によれば、本件建物部分は亡喜一の相続財産であるところ、本件建物部分は、亡喜一が死亡した昭和六一年八月二六日から今日まで、松坂屋他に賃貸されており、その賃料は被告きよが取得している。そして、その家賃合計は昭和六一年九月分から平成一一年三月分まで二億一三五一万四四一八円にのぼり、右合計額から必要経費率二割を控除し、これに原告らの相続分八分の一を乗じると、二一三五万一四四一円となる。
3 よって、原告らは、不当利得返還請求権に基づき、被告きよに対し、それぞれ金二一三五万一四四一円及びこれらに対する請求拡張の書面送達の日の翌日である平成一二年二月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1に対する認否は、甲・乙事件請求原因に対する認否1、2、5項に対するものと同じであるので、当該部分を引用する。
2 同2は否認する。
三 抗弁、抗弁に対する認否、再抗弁、再抗弁に対する認否は、いずれも甲・乙事件のそれと同じであるので、当該部分を引用する。
理由
第一甲・乙事件について
一 請求原因について
1 請求原因1(亡喜一の死亡)、2(身分関係、原告らの相続分)、3(被告会社の設立、役員)、4(本件建物部分が未登記のままであること)、6(被告らが本件建物部分の所有権の帰属を争っていること)は当事者間に争いがない。
2 そうすると、請求原因の中で残る問題点は、第一小島ビルを建築したのは亡喜一か否かという点だけである。そこで、以下この点について判断する。
証拠(甲一ないし四、六、七、九ないし一二の各1、2、一六の1ないし3、三六、原告秀太、被告崇弘)及び弁論の全趣旨によれば、(一)第一小島ビルの建築確認通知書の中には、建築主として亡喜一と原告小野寺両名が記載されていること、(二)第一小島ビルの防火対象物一部使用届出書は亡喜一と原告小野寺の連名で作成され、その検査結果通知書は亡喜一に交付されていること、(三)亡喜一は第一小島ビルの建築資金として株式会社朝日銀行、向島信用組合から金員を借入れていること、(四)第一小島ビルの工事請負人である藤栄建設興業株式会社(商号変更後は東間建設株式会社、以下「藤栄建設」という)は、工事代金支払の領収証を小島ビル代表者亡喜一宛に出していること、(五)藤栄建設は、亡喜一、原告小野寺に対し、工事残金三〇〇万円の支払と引き換えに倉庫取壊し証明書、建物完成引渡証等を渡すとの申入れをしていること、(六)第一小島ビルのうち本件建物部分を除く区分所有建物部分(全体の約三六パーセント)は、原告小野寺を所有者とする保存登記が経由されていることが認められる。
右認定事実によれば、第一小島ビルのうち、本件建物部分を建築したのは亡喜一であることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠は存在しない。
3 以上によれば、原告らの請求原因は理由があるということになる。
二 抗弁及び再抗弁について
1 被告らは被告会社が時効により本件建物部分を取得したとして時効を援用するのに対し、原告らは本件建物部分を占有していたのは亡喜一であり、仮に被告会社の占有が認められたとしても、右占有に当たり被告会社には所有の意思がなかったとして、時効の成否を争う。これら占有の有無、所有の意思の有無に関する事実は相互に関連しているので、以下、この点をまとめて判断することにする。
2 被告らが本件建物部分の占有を開始したと主張する昭和三九年七月時点及びそれから二〇年を経過した時点での被告会社の代表者は、前記一1のとおり、いずれも亡喜一であった。そこで、亡喜一が個人として本件建物部分を占有していたのか、それとも、亡喜一が被告会社の代表者として被告会社のために本件建物部分を占有していたのかが問題となる。以下、第一小島ビル建設当初からこれまでの間の本件建物の占有に関する諸事情について検討することにする。
3 証拠(甲二八の1、2、二九、三〇、八〇、乙四ないし七、八の2、一〇の1、一一ないし一三、一四の1の1ないし20、一六、三〇、三四の1、2、原告秀太、被告崇弘)及び弁論の全趣旨によれば、次の(一)ないし(七)の各事実が認められる。
(一) 亡喜一は、終戦後、木炭、薪類の燃料商を営んでいたが、昭和二五年三月、第一小島ビルの敷地部分を購入した。亡喜一は、昭和二七年四月、右個人商店を法人化し、被告会社を設立し、同社の代表取締役に就任した。第一小島ビルが建築される前は、同ビルの敷地上には、建物の壁面に「株式會社 上州屋」と大きく社名が書かれた、同社の販売用の木炭、薪を保管していた倉庫が存在した。(甲八〇、乙六、原告秀太、被告崇弘)
(二) 前記一2のとおり、亡喜一及び原告小野寺は、共同して、第一小島ビルを建築し、右工事は昭和三九年七月ころほぼ完成した(前記一2認定事実、被告崇弘)。
(三) 昭和三九年七月ころ、被告会社の第一二期(昭和三八年四月一日ないし同三九年三月三一日までの間)の税務申告の税務調査があった。その際、建築中(完成間近)の第一小島ビルをみた税務署職員から、亡喜一に対し、右ビルの所有名義について質問があり、建物の名義を亡喜一にすると、被告会社から亡喜一に対し、右ビル敷地の借地権が贈与されたとみなされる余地があり、そうすると亡喜一に課税される可能性があるとの示唆を受けた。そこで、亡喜一は、昭和三九年七月末ころ、不服審査会の前身である国税協議団の本部長の加藤清らに相談するなどし、贈与税が課税される可能性を除去するために、本件建物部分を被告会社のものとして所有することにした。(乙八の2、一二、三四の1、2、被告崇弘、弁論の全趣旨)
(四) 被告会社の代表取締役であった亡喜一は、昭和三九年七月、本件建物部分のうち一階部分を松坂屋に賃貸し、右賃貸関係は今日まで続いているが、松坂屋は、遅くとも昭和四七年一〇月以降(本件建物部分の帰属が問題となる前)は、賃料を被告会社名義の東京三菱銀行竹町支店普通預金口座に振り込む方法で支払っている(乙三〇、被告崇弘、弁論の全趣旨)。
また、被告会社は、第一三期の確定決算報告書(昭和三九年四月一日から同四〇年三月三一日までの間)以降、本件建物部分を被告会社の所有として計上し、本件建物部分の賃貸収入、賃借人からの敷金も被告会社の確定決算報告書に計上している。さらには、被告会社の第一三期以降の確定損益計算書には、被告会社から、第一小島ビルの敷地の所有者である亡喜一に対し、地代を支払った旨の記載(年額八四万円)がされている他、第一三期の確定決算報告書には、本件建物部分を被告会社の所有として、税務上の減価償却の計算まで行っている。(乙八の2、一三、一四の1の1ないし20、被告崇弘、弁論の全趣旨)
以上のとおり、被告会社では、本件建物部分を被告会社の所有物として扱っている。
(五) 東京都税事務所家屋課税台帳には、本件建物部分の所有者は、被告会社であると記載されており、同社は、遅くとも、昭和四九年度以降、本件建物部分の固定資産税、都市計画税を支払っている(乙七、一一、一二)。
また、被告会社は、本件建物部分の賃料収入により発生した利益で、昭和四一年以降今日まで黒字を続けており、事業税、法人税を支払ってきている(乙八の2、一四の1の1ないし20、被告崇弘)。
さらに、被告会社は、本件建物の所有者として、本件建物の火災保険契約をし、その火災保険料を支払ってきている(乙八の2、一六、被告崇弘、弁論の全趣旨)。
(六) 亡喜一及びその相続人らの本件建物部分の所有権の帰属についての認識は次のとおりである。
(1) 亡喜一の昭和六一年四月一一日作成の遺言状には、遺産から本件建物部分が除外されている(甲二八の1、2)。
(2) 原告らと被告きよ、同崇弘との間で作成された昭和六二年二月二〇日付遺産分割協議書には、第一小島ビルの敷地、第二小島ビルの敷地借地権(台東区元浅草三丁目一六番一五号)、第二小島ビルは遺産分割の対象にされているのに、本件建物部分は除外されている。そして、第一小島ビルの敷地は、相続にあたり、借地権の負担のある土地の価格で税務申告がされている。(乙四、五、被告崇弘、弁論の全趣旨)
(3) 前記(2) の遺産分割後、原告らから、被告きよ、同崇弘に対し、本件建物部分の帰属について何らの要求もされなかったが、平成七年五月になって、原告秀太が被告きよに対し、本件建物部分は亡喜一の遺産であり、未だ分割されていないので分割を要求するとの意思表示がされた。ちなみに、原告博は、平成四年一二月二二日、被告会社との間で、同社が本件建物部分の所有者、貸主であることを前提にして、本件建物部分の五階部分の賃貸借契約の改定の裁判上の調停を成立させている。(甲二九、三〇、乙一〇の1、被告崇弘)
(七) なお、昭和五九年七月当時も被告会社の代表取締役は亡喜一であり、右時点での本件建物部分の占有の形態は、同年三九年七月当時と同様に、亡喜一が第三者に賃貸し、これを管理する形(なお、この占有が個人としての占有か、被告代表者としての占有かについては後記のとおりである)で占有していた(甲八〇、被告崇弘、弁論の全趣旨)。
4 以上の認定事実、とりわけ、本件建物部分を亡喜一の所有とした場合の税負担の危険、被告会社の会計処理、対賃借人との関係、相続人の認識を考慮すると、本件建物部分を含む第一小島ビルが完成した直後の昭和三九年七月ころの時点、それから二〇年を経過した同五九年七月ころの時点での、亡喜一の本件建物部分の占有は、亡喜一が個人として占有していたのではなく、被告会社の代表者として、被告会社のために占有していたと評価するのが相当である。そして、前記3の認定事実に照らせば、被告会社が占有するに当たり、所有する意思がなかったとの他主占有事情を認めるに足りる証拠はないというべきである。そうすると、被告会社が本件建物部分について時効を援用するとの意思表示をしていることが当裁判所に顕著な本件にあっては、被告会社の時効の主張を認めるのが相当である。換言すれば、被告らの抗弁は理由があり、原告らの再抗弁は理由がないということになる。
三 結論
以上によれば、甲・乙事件についての原告らの請求は理由がなく、棄却を免れない。
第二丙事件について
丙事件が成り立つためには、本件建物部分が亡喜一の所有であることが必要であるところ、前記第一で検討したとおり、本件建物部分は、時効取得により被告会社の所有するところとなった。そうだとすると、丙事件の原告らの請求は、その余の点を判断するまでもなく、理由がない。
第三結論
以上から明らかなとおり、原告らの請求は、甲・乙・丙事件とも理由がないので、これを棄却することにする。
(裁判官 難波孝一)
物件目録<省略>